
脳卒中後のリハビリ病院や、ケアホームなどで認知症の方と働く作業療法士が行う主な仕事の一つに、認知機能評価というものがあります。今回は海外でも(特にオーストラリアで)使われている評価法をご紹介していきます!
認知機能評価とは?
認知機能といえば、覚えたり、計画立てたり、問題解決をする日常で必須の能力。これを評価する目的は、現在の対象者の方の認知機能(記憶力、注意力、問題解決能力など)を細かく把握し、日常でできること、難しいことを「なぜ」できる、または難しいのか明確にして、「どうすれば」もっとその人らしくできるようになるかの解決方法を提案、実践するための一助にするためです。
リハビリの前後での比較や、認知症などで時間が経過するごとに変化する脳の機能を測るためにも使用されます。
海外で使われている評価法と日本の評価法の違いとは?
日本で一般的に使用されている認知機能検査には、MMSE (The Mini-Mental State Examination) や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)がありますが、海外ではどのような検査が使用されているか、オーストラリアで働く日本人作業療法士の経験からご紹介します!
MMSE (The Mini-Mental State Examination)
これは日本と同様に一般的ですが、作業療法士の中ではあまり好んで使いたい人はいないようです。
その理由は、簡易ではあるものの「他の評価法と比較した妥当性の低さ」と「対象者の出来ないこと」を見つけるための評価だからです。
作業療法士としては、対象者の強みや欠点の有無だけでなく、「どれくらい」できる・できないのかをしっかり把握して長所も伸ばしていきたいところです!
また、妥当性は中等度~重度の認知機能障害がある方へは適当という一方で、軽度認知機能障害がある部分を見逃す可能性が(例えば、MMSEの検査は満点と出るが、以下で紹介するMoCAでは障がいが見つかったり、日常生活では支障がある場合も)あるといわれています。
PAS (the Psychogeriatric Assessment Scales)
これはMMSEと日本の長谷川式HDS-Rを合わせたような検査で、特にケアホーム(高齢者施設)で政府に認知機能検査結果として提出して入居者が補助金をもらうための提出物の一つでもあるのです。
作業療法士的には、「妥当性どうなの?」「他国から来た人やアボリジニの人はこの質問、記憶障害ではなく知らなくて答えられないんじゃない(例えば、「キャプテンクックは何をした人?」という質問など)?」
というできればやりたくないOTもいる、他の評価法できちんと検査したいと思うけど政府の方針だからやらなければならないという評価法のようです。
評価自体は10分程度で終わり、認知機能のレベル(重度、中等度、軽度)の判定が出ます。

2022年10月からケアホームの制度が変更になったことや、妥当性の問題(PASは長谷川式簡易機能検査のような、人によっては知らない場合もある知識問題があったり、MMSEと似て軽度認知機能障害を見逃す場合がある)から、MoCA(以下に解説あり)のほうが主流になってきているようです。
私もケアホームで働いていますが、より正確に認知機能を把握するため、観察で認知機能障害が軽度~中等度の方にはMoCA、中等度~重度の方にはMMSEを使って精査しています。
The Hierarchic Dementia Scale-Revised (HDS–R)
日本の作業療法士としては一番びっくりした、同じ名前、認知機能検査ですが全く異なる評価方法がこの世に存在する上、どちらもポピュラーという奇跡!
実際、日本の長谷川式HDS-RはMMSEに近いスクリーニング検査なのにくらべ、The Hierarchic Dementia Scale-Revised (HDS–R) は、認知症と診断されたかたに対して、どれくらい「残存能力」があるかを各認知機能に分けて細かく検査する評価ほうです。
こちらはアメリカ発祥、文化などの妥当性を精査して改良されたのちオーストラリアでも広く使われていて、各認知機能(視覚、短期記憶、長期記憶、計算、構成機能、読み、書きなど)がグレードに分けて見えます。
所要時間も海外のHDS-Rの方が、長谷川式の倍はかかります(日にちや時間を分けて行ってもok)が、記憶検査の中でも対象者ができそうな問題から徐々に難しくしていくなど、評価の妥当性だけでなく対象者のやる気や自尊心を保つことも考慮して作られている点が好まれています。
2022年現在、日本語対応はしていないようです(同名の長谷川式HDS-Rの勢力強しw)
MoCA(モントリオール認知機能検査)
この検査は作業療法士を含めた医療関係者がオンライン講習を受け、テストに合格すると認定証がもらえて使用できる、妥当性と信頼性が高い評価方法です。
視空間,遂行,注意,記憶,言語,見当識を評価でき、特にMMSEや日本の長谷川式テストでは正常の認知機能と判定されるけど、日常生活に支障が出始めている軽度認知機能障害の方の早期発見で使用することも可能です。
しっかりと訓練を受けた医療者であれば、評価時間が10分程度ということや、多言語、視覚、聴覚障害者MoCAもあるという点がかなり有効である(高齢者の方で見えにくい、聞こえにくい方へ医療者が大声で話しかけて検査するMMSEとは異なる)ようです。
日本語にも対応しているので、使っている方も増えているようですが、オンライン講習や視覚障害者用、聴覚障害者用、テレヘルス用のMoCAは2022年現在まだ日本語対応していないようです。
MoCAのホームページ(オンライン講習は英語かフランス語のみ)はこちら
まとめ
同じ疾患や障害の方に対しても、対象者の文化や認知機能レベル、評価法の特性をしっかり理解したうえで目的に合った評価法を使用することが大事ですね。
一緒に学んで成長していきましょう!